ラーメンの帰属意識

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    速水健朗氏の著書は、以前に「自分探しが止まらない」(2008年)と「フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人」(2013年)を読んだことがある。
    自分探しや食へのこだわりを手がかりに現代のニューエイジ風味なノリを考察したような書物であるが、私的にはいづれも我が意を得たという読後感にはいたらず、とくに後者はマクロビやほっこりとした感じが好きな自然派「フード左翼」の反対に当たる「フード右翼」が何なのか、読んでもほとんど分からなかった。
    それでこの「ラーメンと愛国」を見つけたときは、「これにフード右翼の説明が載ってるのか?」と思って購入したわけである。
    しかし、著者が「作務衣系」と呼ぶここ10年ばかりのラーメン屋のノリが和風だからといって、それが愛国ってほどのもんなのか私にはやはりよく分からない。「作務衣系」ってカテゴライズするほど作務衣着たラーメン店員もそうそう見かけないし。
    近年はラーメンに限らず、スイーツに抹茶やほうじ茶や和三盆が使われることが多くなったし、スパゲティも和風の内装やメニューは珍しくない。
    ようするに中華や洋食など、脂っこいものにさっぱりとした和の深みを加える。そうすると懐かしさと新しさが同居する洗練されたおいしさが生まれる・・・という効果を狙っているだけじゃなかろうか。
    それにしたがって昔ながらの(和風でない)中華料理屋や喫茶店が、昭和で素朴だという感じになってきてもいる。
    そんな状況の中でフード左翼も江戸や米食やふんどしなど日本の伝統大好きだってことを考えると、和風をぷちナショで愛国と考えるのは昨今のニューエイジ界を考えるうえでけっこう混乱を招くと思う。むしろヤングなネトウヨって、そんなに和風とか好きじゃない気もするし。
    今は愛国&右翼、反日&左翼といった議論がさかんだ。
    そのはしりになったとも思われる香山リカ著「ぷちナショナリズム症候群」(2002年)にも、確かぷちナショの例として作務衣を着た路上詩人の写真が掲載されていたと記憶している。
    確かに路上詩人とラーメン屋の和風は明らかに同じノリだ。作務衣系に相田みつをを彷彿とさせる「ラーメンポエム」がつきものだと指摘されているが、あの手の趣味は若手起業家のあいだで流行っているのかもしれない。成功哲学的に。
    相田みつをが流行していたのが90年代半ばで、その後ナカムラミツルや路上詩人など、癒し&自己啓発風味なポエムが続々と世に出てきた。これは「作務衣系」が台頭してきた時期とも一致している。
    速水氏は208ページで作務衣は陶芸家をイメージさせるために着ているものだと書いているが、同時に作務衣は禅宗の僧侶が着るものであって陶芸家は作務衣を着ていないとも書かれてある。
    引き合いに出されている莫山先生と片岡鶴太郎も陶芸家ではないし、画像検索しても莫山先生が作務衣を着ている写真は出てこないのでこのへんの記述は不可解である。
    ただウィキペディアによれば相田みつをは禅宗と関わりがあるようだし、作務衣野郎にニューエイジ的なノリが散見されることからもイメージ的にあの宗教的かつ示唆的な書のスタイルと禅が結びつくのもそう不思議ではない。

    おまけコーナー

    今はラーメンでさえ中華テイストって誰もありがたがらないが、どうも昭和50年代に関してはその当時の書物やYouTubeを見る限り、「中国四千年の歴史」的ハッタリがグルメや健康法にずいぶん応用されているように見受けられる。
    ウーロン茶もやせるお茶としてブームになったもので、伊藤園やサントリーなど大手企業による大量生産が始まったのが1981年。
    当時の最先端テクノポップバンドYMOが人民服を着て毛沢東のポエムを曲に取り入れ、若者もファッションとしてしばしばチャイナ服を着ていた。町の漢方薬局なんかも30年前って感じの店構えが多く、オウム真理教の麻原彰晃が「亜細亜堂」を開業したのも1978年となっている。
    代替医療は今でこそアロマだのホメオパシーだのとキザな横文字がブームだが、この頃は学生運動(毛沢東主義)上がりが気功や漢方など中国の医学を持てはやし、それらは90年ごろにはニセ科学的な意味で問題視されていた。
    そんな華流ブームの世の中にあってはインスタントラーメンも「本格中華」であり、1981年に明星から「中華三昧」が発売され翌年にはハウス「楊夫人」(マダムヤン)がその後を追った。

    中華は作務衣だけではなくキムチ化も進行しており、各種キムチラーメン、キムチチャーハンだけではなく、夏に韓国冷麺を出す店もある。
    そんな相性のいい中華とキムチだが、ことインスタントにいたっては私の中で辛さとまずさに定評のあるK-ラーメン(ラミョン)。K-POPごり押し期マッコリとともに大量に輸入されたため、スーパーなどで見かけた方も多いだろう。
    ウィキペディアによれば韓国のインスタントラーメンは1963年、明星から無償技術供与を受けた三養(サンヤン)食品が製造を開始したのが最初であり、朝鮮戦争後の食糧難の時代に手軽なエネルギー源として受け入れられたとのことである。
    三養食品はCMに少女時代を起用しているトップ企業だが、今のところ日本向けの製品は見たことがない。
    また韓国料理の店では必ずといってよいほどインスタントラーメン入りの鍋(プデチゲ)が用意されており、プデは部隊の意、具にスパム(の模造品?)が使用されていることから、野戦食の影響があるとみられる。
    日本でも発売されているオットギ社の「サリ麺」はスープが入っていないのだが、あれもチゲ用なのだろう。
    食べ方は必ずしも皿にとりわけるわけではなく、麺を鍋ぶたの裏に取ったり、または豪快に鍋ごといったりする例もあるようだ。

    現在、日本の袋めんは生めん風がブームだ。
    この市場を切り開いたのは、東洋水産「マルちゃん正麺」で発売は2011年11月。「ラーメンと愛国」がこの1か月前なので、当然ながら同書には生めん風には触れられていない。
    役所広司のイメージが強いせいか、後発商品のCMも西島秀俊や堺雅人など中年男性俳優を起用するのが定型化している。
    これまでのインスタントは生めん志向になるとノンフライの細麺になる傾向があったが(豚骨はそれでもよいのだが)生めん風は麺の太さをキープしながらツルツルしているのがなんとも革新的で、これにより醤油および塩ラーメンの素晴らしさが一気に向上した。あくまでメインは麺であり、スープ自体はかなりオーソドックスなのである。
    にしても・・・こういうのが出てくると、前からある袋めんや高級カップラーメンの価値が相対的に落ちそうな気がしないでもない。まぁカップは麺がどうしようもないぶん、脂っこいスープで勝負って感じだろうか。

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      • 2017.09.15 Friday
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