否定された江戸しぐさ

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    最近嫌韓本がブームってことで書店に立ち読みしに行ったのだが、けっきょく買って帰ったのは全く韓国と関係のない「江戸しぐさの正体」。公共広告機構のCMでも紹介された江戸の粋なマナー「江戸しぐさ」がいかに嘘っぱちかを論じたこの本は、先月末に出たばかりのようだ。
    今年に入って江戸の風俗に興味を抱き始めた私がブックオフとかで適当に買い集めた本の中にも、お子様向けと思われる越川禮子監修「マンガ版江戸しぐさ入門」(2007年)があった。
    江戸を論じた本には、淡々とした記述の中に江戸の魅力が伝わってくるものと、いっぽうで現代社会をディスるために江戸をもてはやすものがあるが、「江戸しぐさ入門」は後者の中でもかなり強烈な部類だ。良いことを言っているようで、実際は何が言いたいのかよく分からなく、その読後感は新興宗教のラジオやCMに接した時の気持ち悪さに通ずるものがある。
    例えば公共広告機構のCMで引用された「こぶし腰浮かせ」は、腰をやや浮かせて席を詰めるマナーらしい。
     

    渡し舟での江戸しぐさです
    客はそれぞれ自由に乗っています
    「舟が出るぞ〜いっ」
    「待ってくれェー!」
    「乗せてくれェー!」
    ・・・
    客たちは自主的に座り方を変えます
    握りこぶしひとつ分腰を浮かせてやるのです
    「すみませんお侍さん ちょっと腰浮かせてもらいますか!」
    「あい分かった!」
    ・・・
    人に言われてからやるのはいなかっぺいとされました
    現代はどうかな?
    江戸時代は船が主な交通手段だったんじゃ。
    現代はそれが電車やバスに変わった。
    現代にこぶし子腰浮かせは生きているのかな?
    (今しぐさ・・・電車の座席で思い思いに新聞を広げたり荷物を置いて眠りこける悪しき現代人の図)
    なげかわしいのー。そんな世の中になってしまったのか。
    それじゃあ身もフタもないなー。
    他にもあるよねー。
    お年寄りや妊婦さんがいても知らんぷり。
    ・・・
    江戸時代とはエライ違いだナァ。
    江戸時代はみんな譲り合って仲良く暮らしていたんだよ。
    (「江戸しぐさ入門」66,67ページ)


    マンガなので文字だけ抽出すると分かりにくいかもしれんが、この本のエピソードは基本的に、ご隠居とかいう狂言まわしが粋な江戸しぐさを解説(今ひとつ意味の分からないマンガ)からの「今しぐさ」でお互いに関心を払わない人間や「っていうかァ」などと若者言葉を使う服装の乱れたDQNをものすごくステレオタイプの悪に描いて現代社会を嘆き、最後に「江戸を参考にしないといけないね」「江戸っ子の粋を身に着けたいね」「江戸しぐさの信頼の心を取り戻したいね」ねっ!ねっ!と、江戸しぐさのすばらしさを読者のお子様方にゴリ押すパターンが主である。
    で、この「こぶし腰浮かせ」に関して「江戸しぐさの正体」の中では、江戸の渡し舟には座席がなく、馬や荷物と一緒に船の底板にしゃがむように座っていたことをふまえて、腰を浮かせて席を詰めるのは現代のバスや電車のような長い座席ゆえの発想だと指摘されている。
    また「江戸しぐさ入門」で狭い道を傘同士がすれ違う時に傘を傾けてスムーズに通行するマナーとして描かれている「傘かしげ」も、江戸は和傘がそれほど普及していなかったうえに、すれ違う時は傘を傾けるよりもすぼめたほうが自然だったとのことだ。
    私含め普通の人は渡し舟に座席がないとか、和傘の使い方などの知識を知るよしもないと思うが、「江戸しぐさの正体」でたびたび引用されている越川禮子著『商人道「江戸しぐさ」の知恵袋』の内容にいたっては江戸の民が野菜スープ、トマト、チョコパン、バナナなどを食べていたというから、その歴史観は韓流ドラマばりの荒唐無稽さであろう。
    「江戸しぐさ入門」によるともともと「江戸しぐさは商人によって編み出された知恵」(59ページ)が、やがて商人道を超えて見様見まねで江戸の人々に広くいきわたったとのことで、道徳授業とか経営教育コンサルタントとか書いてるのも見ると、これはよくある左翼のロハスな江戸礼賛ではなく、ありがとう教(水からの伝言)とか素手トイレ掃除みたいな、一部教師や経営者に浸食している変なノリの自己啓発かと思われた。
    斎藤貴男(かなりの左翼)言うところの「カルト資本主義」であり、「江戸しぐさの正体」も明らかにそれに似た視点で安倍政権など保守勢力との関係を示唆している。オカルト教育の抑止力、すなわち著者言うところの「トンデモのフィルター」を日教組や市民団体に求めるのは、江戸しぐさをカルト資本主義の一種と位置づけていることに由来しているのだろうけども、安倍晋三個人は多くの江戸礼賛者と違って親米だろうし、江戸時代を好きになる理由も特に思いつかない。
    むしろ私はこれを読むことで、やっぱり江戸しぐさって左翼じゃないのか?とも思えてきたのだ。
    というのも、布教者である越川禮子氏が江戸しぐさ以外で取り扱っていたテーマがインドでヨガの聖地とか、公民権運動、ネイティブアメリカン、アイヌ、など相当に左っぽい(ニューエイジ、カウンターカルチャー)趣なのである。しかも江戸しぐさが途絶えた原因を「江戸っ子狩り」としており、その迫害の歴史を先住民になぞらえているというのだ。
    151ページでは安倍首相が「戦後レジームからの脱却!」「憲法改正!」と言っている横で、越川氏など著者が「オヤ?あんたまだ長州藩ナノ?」「日本を戦争の出来る国にしないで!」と憲法9条風味の意見を物申している江戸しぐさのマンガも掲載されているし、江戸文化の専門家である田中優子氏(かなりの左翼)が江戸しぐさを応援していた事実も指摘されている。
    また江戸しぐさは「外国人など異文化の人も受け入れなくてはいけない」と、多文化共生も志向しているらしい。
    左翼は欧米勢力が牛耳る資本主義のオルタナティブ(平和でエコ&エロな懐かしい未来)として、右翼は日本の伝統リスペクトとして、いずれも江戸時代が素晴らしい理想社会ということには何の疑いも持たないことがある。武士を讃えるのは右翼、吉原や夜這いなど野蛮な文化は左翼・・・ってな違いがみられるけども、商人の精神ってのはこれという位置づけが定まっていなさそうだ。

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      • 2017.09.15 Friday
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